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院長エッセイ

新体制の振り返り

昭和60年10月所沢市三ケ島の地に開院した当院は、令和7年10月に開院40年を迎えました。令和6年4月より新体制でスタートしてから1年半経過し、当院だけでなく分院であるクリニックを含め、当法人は大きく変貌を遂げております。この1年半の当法人の取り組みを振り返ります。

1. 当法人が取り組んだ課題―<良質な医療>と<安定した経営>の両立

当院は病床数103床の小さな精神科単科病院です。看護基準15対1の一般精神病棟、いわゆる慢性期中心の病院です。私が病院の院長として、法人の理事長として心がけたことは<良質な医療と安定した経営の両立>です。ここで<良質な医療>とは何か?入院治療においては、「早く治療して早く退院していただく」「退院を希望する患者さんに対し積極的に退院支援を行う」ことと私は考えております。では<安定した経営>のために必要なことは何か。病院である以上、何より<入院稼働率の向上>ということになります。つまり、「早く治療して早く退院していただく」「退院を希望する患者さんに対し積極的に退院支援を行う」ことを心がける医療が<入院稼働率の向上>と両立するのか?ここが課題です。慢性期中心の精神科病院において、これは一般的には両立しない課題であることはおおよそ業界内の常識といえるでしょう。慢性期の精神科病院は、長期入院を前提として、病床稼働率を落とさないことが、これまでも、そして今なお常識的な考え方になっていると思います。

2. 在院日数の短縮―<生活の場>から<治療の場>としての病院へ

私が当院の院長に就任してから、上記にかかげたような<良質な医療>を一貫して追求してきました。その結果、平均在院日数は令和5年3月末で375日だったのが令和7年10月末で159日まで短縮しました。令和6年4月以降に新たに入院した患者さんに限定すると87日で、これは急性期病棟並みの実績といえます。10年以上の長期入院患者さんも少しずつ退院しておられます。稼働率としては令和5年度が平均69%で推移していたのに対し、令和6年4月~令和7年10月までは平均72%となっております。全体としてみると稼働率は微増程度ですが、入院数をみると令和5年度が月平均6.4人だったのに対し、令和6年4月~令和7年10月末までで月平均12.1人と約2倍となっております。さらに、入院期間ごとの比率をみると、令和6年3月末で6か月超75.4%、3~6か月4.4%、3か月未満20.2%だったのに対し、令和7年10月末で、6か月超56.9%、3~6か月12.3%、3か月未満30.8%となっております。6か月を超える入院患者さんの割合が全体の6割未満となっており、大幅に減少していることがわかります。稼働率自体は微増程度であり、十分とはいえませんが、医師、看護師、薬剤師、作業療法士など多職種それぞれが、限られたマンパワーの中で、できることを考え、実践することで、当院は、令和5年度の赤字経営から令和6年度以降は黒字に転じております。しかし、個々人の努力には限界があり、構造的な変革が求められます。当院が今後、より安定的な経営を目指して進むべきは、実質的に急性期的な治療を行っているのであれば、それに対応して<急性期病棟>としての体制を整備することといえるでしょう。病院はあくまで<治療の場>であり、精神科病院だからといって、かつてのような<生活の場>である必要はないという考えのもと、診療体制のさらなる充実化を目指していきます。

3. ケースワーク─<良質な医療>の実践のために

<良質な医療>を実践するために必要不可欠なのがケースワークです。患者さんごとにどのような退院支援を行うのか。当院のケースワークは、入院依頼があったときからスタートしております。どのような経緯で入院が必要と判断されたのか。自宅で独居していたのか、家族と同居していたのか、施設に入っていたのか。支援体制はどのようなものだったのか。入院前にこれらを確認しておくと、おおよそ退院に向けてどのような支援が必要になってくるのか見通しがつきます。精神科のケースワークはそもそも時間がかかります。生活が破綻し、退院するためには住まいを新たに探さなければならないケースが少なくありません。こうしたことは、あらゆる診療科の中で精神科特有といえるでしょう。早期退院に向けてはなるべく早くケースワークに着手することが重要と考えております。

ケースワークをすすめるにあたっては、ご家族の協力が第一ですが、地域の支援者の皆さんの協力も不可欠です。所沢やその周辺地域の支援者の皆さんは、とても熱心であると実感しています。保健所、保健センターなどの<行政>、訪問看護などの<医療>、グループホーム、作業所、老人施設などの<福祉・介護>の各職種の皆さんが、話し合いのために何度も病院まで足を運んでくださいます。平成29年度から厚生労働省において「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」、いわゆる<にも包括>が推進されておりますが、所沢周辺地域は<にも包括>を推進するにあたって、ハード、マンパワーはすでに十分に整っており、最も出遅れているのは我々病院サイドであると日々痛感しております。入院患者さんに対するケースワークにおいては、病院がリーダーとなって、行政、福祉・介護各部署との調整役につとめ、患者さんの地域移行をすすめてまいります。

4. アウトリーチ活動―地域生活を支えるために

当院では、患者さんの地域生活を支えるために令和6年4月からアウトリーチ活動に力を入れております。具体的には、通院が困難な患者さんに対し、治療が中断しないように医師がご自宅、施設に訪問に出る機会を増やしております。治療者として、患者さんが普段どんな場所でどんな暮らしをしているのか、実際に見てみることは、生活能力を見極める機会にもなり、治療をすすめていくうえで大きなメリットと感じております。令和7年10月末の時点で約100名の患者さんに対して月1回を原則として訪問しております。個人宅は約1割で、その他約9割はグループホームなどの施設に入所している患者さんです。今後は、マンパワーを整え、アウトリーチ活動の拡充を目指していきたいと考えております。地域支援者の方とお話すると、医療機関への受診につなげて医師にアセスメントしてもらいたいケースがあっても、本人が病院に行くことを拒否しており、受診がなかなか難しいというお話をうかがいます。「自宅で診察してもらうことは可能だろうか?それなら本人に抵抗感はないのだが」。このような相談に対応できるように、初診から訪問できるような体制を作ることも必要と感じております。

5. クリニックの診療―所沢駅前という立地にふさわしい医療を目指して

当院の分院であるクリニックでの外来診療も大きく変貌しております。所沢駅西口プロぺ通り徒歩1分のところに位置しており、アクセスは申し分ないといえますが、これまでは1日30人程度の診察しかできておらず、スピード感として所沢駅前という立地に相応しいとはいえませんでした。令和7年2月にクリニックの院長交代があり、診療にスピード感が増し、診療時間も増やして1日50人程度の診察が可能になりました。現在、平日では月曜と、金曜午後を休診としておりますが、土日の診療は継続し、平日就労しておられる方のニーズにも対応しております。待合室が狭いため、ご迷惑をおかけすることもありますが、開発が進み人の往来が増している所沢駅前で精神科医療を展開するクリニックとして、今後もスピード感があり、それでいて丁寧な診療を心がけてまいりたいと考えております。

以上、簡単ではありますが、当法人の1年半の取り組みを振り返ってみました。<良質な医療と安定した経営の両立>という課題に着手したばかりで、これから改善すべき点は多々ありますが、職員一同協力しながら取り組んでまいります。よろしくお願いいたします。

令和7年11月17日

医療法人信和会 理事長
三ヶ島病院 院長
杉原 徹